イタリア スケッチ

ポルトフィーノの港

イタリアの湖水地方で最も大きな湖、ガルダ湖。そこに天の橋立のようにつきだしたシルミオーネの町。遠浅の砂浜と温泉に恵まれ、アルプスを越えて最初にたどり着いた保養地として、ドイツ人に人気。

旧市街の入口には、広い湖を見渡すように城が立っている。これは城をとりまく広場の町並を描いたもの。

描き終わって「できた!」と一声あげたら、見物客になっていたブティックの女主人が「まだ終わりじゃないわ。大切なものを忘れてる」と看板を指さした。それはグリフォーネ(鷲の頭とライオンの胴体をもつ伝説上の動物)、この町のシンボルなのだそうだ。片付けかけた筆を出して、ちょこんと描き足したら、周囲から拍手、喝采を受けた。



ペンションの朝のテーブル

オーストリアとの国境に近い山岳地帯、ドロミティ。山深い生活の中で古くから木工細工が発達し、木彫の人形を袋いっぱい詰めて、町に売りに行くのが唯一の収入元だったそうだ。

セルバという小さな集落に10日程滞在した。これはペンションの朝食用の食堂を描いたもの。連日の雨にたたられて外で描けずにいたところ、ペンションのおばさんに相談したら、どうぞ、と心良く描かせてくれた。

おばさんはクリスマスの予約の電話に追われていた。 一番のハイシーズンは年末年始なのだそうだ。今年の冬も常連客や2年も前からの予約でいっぱい。こんなところで雪降るクリスマスを過ごせたらどんなに素敵だろう、とうらやましくなった。



遺跡の丘とテラス

シチリア最大の古代遺跡、アグリジェント。「神殿の谷」と呼ばれる一帯は、広々とした丘陵地帯にたくさんの神殿跡が散らばっている。日中は遮るもののない強い日差しが照りつけて、観光にはかなり体力を消耗するが、夕暮れ時の遊歩道の散策は最高にロマンチックだった。

これは宿泊していたホテルからの眺め。あたり一面に遺跡が広がり、その向こうには空にとけこむように海の青がうっすらと見える。

ホテルの支配人はすっかりこの絵を気に入って、「立派な額に入れてロビーに飾りたい」と申し出てくれた。手放すのが寂しくて辞退したが、そんなふうに土地の人に絵を譲りながら旅をするのもいいな、と思った。



グリフォーネの看板

イタリアの湖水地方で最も大きな湖、ガルダ湖。そこに天の橋立のようにつきだしたシルミオーネの町。遠浅の砂浜と温泉に恵まれ、アルプスを越えて最初にたどり着いた保養地として、ドイツ人に人気。

旧市街の入口には、広い湖を見渡すように城が立っている。これは城をとりまく広場の町並を描いたもの。

描き終わって「できた!」と一声あげたら、見物客になっていたブティックの女主人が「まだ終わりじゃないわ。大切なものを忘れてる」と看板を指さした。それはグリフォーネ(鷲の頭とライオンの胴体をもつ伝説上の動物)、この町のシンボルなのだそうだ。片付けかけた筆を出して、ちょこんと描き足したら、周囲から拍手、喝采を受けた。



モンテロッソの丘

リグーリア州の海岸沿いの町、モンテロッソ・アル・マーレ。広場で出会ったおばあさんの紹介で、妹さんの貸してる部屋に滞在することになった。

展望の良い集合住宅。広々としたリビングの1LDKで、海の見えるベランダがついていた。

玄関を出ると、階段状に造られたポーチが畑の間の小道へと続いている。道なりに下って行くと、町の広場まであっという間だった。

これは玄関の階段をいくつか降りた踊り場で、風にふかれながら描いた。強風にあおられて画板が何度か倒れたが、青い海、青い空が気持ち良かった。



山の朝

オーストリアに近い、ドロミティ山群の小さな登山基地、セルバ。

展望台で出会ったスイス人のご夫婦と仲良くなって、滞在中しばしばご一緒させていただいた。絵にあるこの山にも一緒に登り、野生では珍しいアルピナ・ステッラ(アルプスの星の意・エーデルワイス)をご主人が見つけて、その幸運に3人で喜んだ。

お二人は湖のある町に住んでいて、湖畔にデッキチェアを2つ、市との契約で置かせてもらってるそうだ。仕事の後は、夕方、湖畔で過ごすという。この山へは奥さんの器官支炎に良いということで、ここ何年か通っているそうだ。

山を登って、午後早めに降りてきて、身ぎれいにして夕食を楽しむ。ゆとりのある暮らしをほんの少しのぞかせてもらって、素敵な数日間だった。



海の見えるレストラン

シチリア南西の遺跡の町、セリヌンテ。海を見下ろす高台に、古代の町並が広がっている。海沿いには町のメインストリートがあって、海側のお店はどこも眺めがいい。この絵もそんなお店の一つ。潮風の吹き抜けるレストランだ。 通りは夜になるとイルミネーションもにぎやかに、お祭りのようなにぎわいになる。若者はもちろん、子供からお年寄りまで、どこから現れたのかと思うほどの人出で、仮設の遊園地も動き出す。

シチリアのリゾートはみなそうだが、昼はひっそりと静か。皆が浜で休んでる時にセッセと絵を描いて、皆が元気に動き出す夜には自分はグッテリ疲れている。次回はリゾートしに来たいなあ、としみじみ思った。



カラフルな半島の町

モンテロッソと並ぶ地中海沿岸の小さな町、ベルナッツァ。山と海に囲まれた小さな町々を気持ちの良いハイキングコースがつないでいる。

隣町から山道をぬけて歩いてきた時、曲がり角で突然姿を現した半島の美しさに感動した。山の斜面にイーゼルを立て、たまに行き交う通行人に道をゆずりながら、一時間。強い日差しに頭がマヒしそうになりながら一気に描いた。

一仕事終わって、入り江に面した広場で一休み。人なつっこい笑顔と新鮮な魚介類が迎えてくれた。

夕暮れ時、桟橋を先端まで歩いて、水平線が赤く染まるのを見ていると、身も心も幸せでいっぱいになる。



バッサーノの木の橋

 オーストリアに近いアルプス山麓の町、バッサーノ・デル・グラッパ。日本酒によく似たぶどうの蒸留酒、グラッパの産地。イタリアを旅行していると、よく「グラッパを試してみるか?」と勧められ、何度かいただいたことがある。ウォッカ同様、火をはきそうなほどカーッとくる強いお酒だ。お店には美しいガラスのボトルに入ったグラッパがたくさん並んでいた。

この町は古くから、屋根付きの木の橋、ポンテベッキオでも知られている。残念なことに第二次世界大戦で破壊され、現在のものは元に忠実に再現したものだそうだ。それでも橋を訪れる観光客は後を絶たない。

道のわきで描いていると、後ろを通りすぎていく車やトラックに声をかけられ、振り向くと「ちゃお、ちゃお」とあいさつされる。観光客は多いけど、のどかな町だなあ、と思った。



モンブランと教会

フランス国境にそびえるアルプスの最高峰、モンテ・ビアンコ(白い山という意味・フランス名モンブラン)。アオスタ地方と呼ばれるこの一帯は、以前から行ってみたかった憧れの地。秋の山を描こうと10月に訪れた。

レーブは雑貨店が一件あるだけの小さな集落。夏のハイキングシーズンを9月に終え、11月から始まるスキーシーズンに備えて、家の修理や増改築が盛んだ。いろんな所でトンテン、カンテン、カナヅチの音がする。「若い者らに頑張ってもらう時期なんだ。ワシも昔はよくやったもんさ」と近所のおじいさんが語っていた。外からの客の多いこの村にとって、今は貴重な憩いの時間のようだった。

日が山の陰に入ると、とたんにもの凄い冷え込みがやってくる。太陽の力をこんなに感じたことはない。村の人たちに勧められ、カーサ・ディ・フィリッポ(フィリッポの家)というレストランに夕食をとりに行った。バターのこってりとした郷土料理に、体が芯から暖まった。



紅葉

北イタリア、サボナとジェノバの中間に位置する、海辺のリゾート・アレンツァーノ。 ふとしたきっかけで、知り合った友人夫婦にさそわれて、彼らのアパートに しばし滞在させてもらうことに。 親切な2人は、それぞれの仕事の空き時間を利用しては、街中を 案内してくれた。これは紅葉を描きたい、という私のリクエストに 応じて案内してくれた公園。 広い公園の中には、歴史的建物や植物園などが点在し、 くじゃくやガチョウが放し飼いされている。ここのくじゃくは 市民の人気者で、時々公園を飛び出して、お宅訪問をするそうだ。



別荘の居間

シチリアの西の端、山の頂にある静かな町エリチェ。石畳の美しい町並に魅せられてしばらく滞在するうち、町の人たちとすっかり打ち解けて居心地の良い毎日。

二度目の訪問の時、広場で描いているとコーヒーを飲んでいたおじさんグループの一人が「次はうちを描かないか?」と声をかけてきた。このおじさんは普段は州都パレルモに住んでいて、夏の間はこちらの別荘で過ごしているのだそうだ。夏でも涼しいこの町はお年寄りたちの避暑地でもある。

おじさんの別荘は彫刻やアンティーク家具で飾られた豪華な部屋だった。おじさんは面白がって、中庭でも描きなさい、と結局2枚描かせてくれた。日本に持って帰る約束で描かせてもらったのだけれど、描き上がってみると「やっぱりほしい」と言われて困ってしまった。結局、大きくプリントしたものをお送りすることで合意した。その日は預けて帰り、翌日訪問すると、「一晩楽しませてもらったよ」と笑顔で迎えてくれた。



北イタリア、リビエラといわれる一帯、5つの半島が地中海に飛び出している ことからチンクエ・テッレ -- 5つの大地 -- と呼ばれている。 背後には山がせまり、海に面したこれらの町はそれぞれの町をつなぐ 海辺のハイキングルートでつながれている。モンテロッソ・アル・マーレ周辺は アメリカで人気の高い一帯らしく、アメリカ人のハイカーがいっぱい。

潮風と強い陽射しにてらされて、一枚描くとグッタリと疲れる。 それだけに、休養を兼ねた食事がおいしい。

この地方独特の”前葉の盛り合わせ”は、それ一品だけでコース料理 かと思う程、何皿もの小皿料理が次々と運ばれてくる。



ホテルのエントランス、テーブルと藤のイス

南イタリア、ナポリの近くのイスキア島は、古くから 温泉、保養所として知られている。 島の中の主だったホテルには、みなエステの施設が整っていて、 長期滞在客をゆったりともてなす。 ここもそんな優雅なホテルの一つ。

私は一泊だけの贅沢。

エントランスわきで描いていると、籐のひじかけイスを後ろに もってきてどっしりと陣どり、私が一筆描く毎に「ふむふむ」と うなづいてくれる観客も・・・。 すべてがゆったりとしていて優雅。お金持ち達のバカンス。 ホテルの従業員もコンピューターの手を止めて、出窓にほおづえを ついて、こちらを眺めている。



プール

南フランス、コートダジュールの海辺の町、ヴィルフランシュ。 ホテル・ヴェルサイユは海を見下ろす高台にあった。 朝食をとって部屋にむかう途中の廊下で、大きな窓ガラスのむこうに 陽光に照らされたプールが目にとまった瞬間、描きたいと思った。

ホテルの室内にイーゼルを立てて、窓から見下ろすこと40分。 描き上がって時計を見たとき、あまりに短時間で描き上げたことに驚いた。 地中海の陽光と窓からの風が心地よかった。




南イタリア、シチリアの首都、パレルモ。 安いけど、かつては格式あるホテルだったであろうと思われる、街の中心 にある小さなホテルに数日間滞在した。これは2階の広間の窓から 向かいの建物の窓を描いたもの。

しばらくすると、その窓の住人から「こっちにいらっしゃい」との 声がかかった。 すっかり私の保護者気分になっていた、ホテルの従業員である老紳士は、 「わしと一緒ならいいだろう」と応答して、2人でそのお宅におじゃま することになった。コーヒーとおしゃべりの楽しいひとときだった。



黄色いテントのおかし屋さん

南イタリア、シチリア本島の西にある小さな島。 首都パレルモから始まった私のスケッチ旅行は、 「絵を描くのに良さそうな町を知りませんか?」 と尋ねていくうちに、離島にたどり着いた。 島をぐるりとまわってみると、絵の素材が豊富なのに満足して、 しばらく滞在することに。 これは町の広場の近くの小道に面した甘味屋さん。 ピンクの壁にひきつけられた。

帰国後、絵の写真をお送りして、3年後再び島をたずねた時 地方誌に私の絵を使ったお店の広告がでていて、ビックリ。 「一生タダで、うちのアイスクリームを食べていいよ!」との ありがたい申し出をいただいた。



パラソルのあるレストラン

北イタリア、湖水地方で一番大きな湖、ガルダ湖。 その湖につき出るように位置するシルミオーネは、北方から アルプスを超えてやってくるドイツ人のバカンス客でいっぱい。 湖に面した内庭にあるペンションで毎朝ゆったり朝食をとった後、 バカンス客に混じって絵を描く。

これは町なかにあったホテル・レストラン。イーゼルを立てて描き始めると ホテルの従業員が出てきて、キートンの映画よろしく ソファのカバーについている青いリボンを、小指を立てて結び直した。

町の中にはいつも湖から、心地良い風がとおりぬけていた。